最軽量バイク(Lightest bike):1位
審査員によるポイント(Choice of the jury):1位
テクニカル・ポイント(Technical points):1位
※オリジナルパーツやモデファイに対して加算されるポイント。メカトラブル等の問題があれば減点される
メカニック面での減点:なし
各ステージにおける速度面での減点:なし
総合順位(Overall):2位
最軽量、審査員のポイント、テクニカル・ポイントで1位をとっていたことに驚きました。そして、何よりも審査員がピーター・ワイグルのバイクのクラフツマンシップ、そして機能美を評価してくれていたことが嬉しかったです。
たとえば、ピーターはコーナリング時にも最適な角度で路面を照らせるように、フロントフォークではなくフロントキャリアの先端にライトを取り付けています。こうしたディテールにポイントは付きませんが、テストライド前のプレゼンテーションで、審査員が走行に必要な小さなディテールについても評価してくれたことの意味は大きいように感じます。
あれっ。でも、それじゃあ何故、総合順位が2位なの? と、疑問を抱く方もおられるでしょう。実は、総合順位を決めるうえで、最軽量、審査員のポイント、テクニカル・ポイントに匹敵する重要事項が設けられていたのです。そして、ピーターのバイクはそこで高得点を得ることができませんでした。それが何かというと……
会場人気投票:6位(24車両中)
フレームビルダーによる人気投票:7位
レジュメ(ペーパーワーク):15位
コンクール・マシンは、アンベールで毎年開催されている大きな自転車イベントの一環として開催されています。そのため、数千人の来場者のほとんどはロードレーサーのユーザー。日本でいうなら、サイクルモードの来場者のイメージが近いです。多くの来場者にとってのモダンバイクとは? そう考えると、会場人気投票の結果もうなずけます。さらに、コンペティター同士の投票はフェアになりにくいもの。フレームビルダーによる人気投票については、総合順位とは別のカテゴリーで評価してもよかったのではないかと、個人的には感じます。
そして最も順位が低かったのはレジュメ。これには一同、苦笑いでした。本来ならば、私たちが写真撮影など、プレゼンテーションに必要な作業をサポートしなければならなかった。けれど、ピーター・ワイグルの本拠地は北米・東海岸のコネチカット。Bicycle Quarterlyの本拠地は北米・西海岸のシアトル。そして、私は東京から参加。さらに、開催地はフランスという3カ国にまたがるプロジェクト。悔しいですが、言い訳は無用。受け入れざるを得ない結果です。
また、コンクール2日目のテストライドで、ヤンは一緒に走っていたセバスチャンとともに、一カ所GPSの誤作動でミスコースをしています。ミスコースで減点されたことも、順位を落とした理由の一つかもしれません。コースに復帰するために、8kmほど大回りをせざるを得ませんでしたが、幸い主催者はコンクール2日目のテストライドの基準速度を当初の22.5km/hから15km/hに引き下げて採点を行ったそうなので、速度による減点はありませんでした。
とはいえ、今回のコンクール・マシン参加の目的は、私たちにとって「本当に必要な機能を備えたサイクルツーリング・バイク(ランドヌール・バイク)とは何か?」という指針を示すことでした。その目的は十二分に果たせたと感じています。
なかでも嬉しかったのは、最軽量バイク賞を受賞したということ。車両重量は約9.1kg(フレームサイズ C-C / 590mm)。もちろんこれには、通常ロードレーサーを計量するときには含まれない(であろう)、ペダル、フロントキャリア、バックサポーター、ライト、ジェネレーターハブ、泥よけ、マッドフラップ、ボトルケージ(2ヶ)、輪行システム、ポンプ、ライトスイッチシステムも含まれています。これだけでも、パーツを考慮しなければ簡単に2kgほど重量は増えてしまいます。ちなみに、軽量化をさほど意識しないで組まれたフレームの場合、11kg〜12kgというのがツーリングバイクの一般的な重量。9.1kgがいかに軽いか、なんとなく感じとっていただけたでしょうか?
ピーター・ワイグルのバイクは、ぱっと見では軽量化を図っているようには見えません。唯一、見た目にわかるのはチェーンリングに加えられたホールでしょうか。誤解をおそれずに言うならば、最新のテクノロジーを駆使して設計されたモダンパーツは、後から手を加える必要がほとんどありません。上位グレードのものなら、なおさらです。今回、ピーターがチェーンリングやクランクに手を加えることができたのは、ライダーの走り方によるところも大きいのです。
ということは、争点はいかにフレームを軽量化するかということ。そしてキャリアなどのオリジナルパーツをいかに無駄のないデザインに仕上げるかということ。それも、テストライドを乗り切ればいいのではなく、ロングライドにも耐えられるような、そんなバイクのための必要十分な軽量化。ここに、ピーター・ワイグルの長年の経験が活かされました。
ということは、争点はいかにフレームを軽量化するかということ。そしてキャリアなどのオリジナルパーツをいかに無駄のないデザインに仕上げるかということ。それも、テストライドを乗り切ればいいのではなく、ロングライドにも耐えられるような、そんなバイクのための必要十分な軽量化。ここに、ピーター・ワイグルの長年の経験が活かされました。
正直言って最初にピーターのバイクを見たとき、私もヤンも10kg以上あると思いました。そのぐらい、パッと見ただけでは何故軽いのか、わからないのです。ということは、見えないところに隠された軽量化のヒミツがある。それを解きあかすには、バイクを一度バラしてみるほかありません。
ちなみに、今回のコンクール・マシンで使った主要な既成パーツは以下の通り。軽量化を視野に入れつつも、乗り心地や耐久性を考慮して選んでいます。パーツ選びに関しては、コンクール・マシンのライダーであり、このバイクのオーナーでもあるヤンの好みが大きく反映されているので、ご参考までに。
SON Widebody hub: SON Deluxジェネレーターハブのワイドボディバージョンを使用。ワイドなフランジは剛性の高いホイールを組むのに有利だと考えました。コンクール・マシンに参加するためにヤンがシュミットに28穴のワイドボディバージョンの製品化を粘り強く交渉し、ようやくその願いが叶いました。
Pacenti Brevet 650B rims: 近年、28穴の650Bリムが容易に手に入るようになりました。ピーター・ワイグルの手によって軽量化のための若干のモデファイが加えられています。
Titanium brake pad eyebolts: 通常、スチール製のボルトをチタン製のものに置き換えることは、強度の問題から推奨していません。ブレーキパッド用のダルマネジは長さがあるので、チタン製でも問題ないと判断。プロトタイプのRené Herse(ルネ・エルス)カンティレバーブレーキ(写真・上)と合わせて使用しています。
Compass Loup Loup Pass Extralight 650B × 38mm tires: パナレーサーと協働開発を行って誕生したCompass Cyclesの超軽量タイヤ。日本でも手に入りやすくなりました。
Compass René Herse cranks: フランスの伝説的なフレームビルダーRené Herse(ルネ・エルス)がデザインしたクランクを現代の技術を用いて復活させた銘品。ピーターは一部、モデファイして使用しています。
Compass Maes Parallel handlebars: Compass CyclesとNITTOがコラボした軽量ハンドルバー。
Gilles Berhtoud Galibier saddle : 決して最軽量とはいえないレザーサドルですが、その使い心地のよさで採用。安全性を高めるために取り付けられているブラケットは、今回外して使用しました。
Crank Brothers / Eggbeater11: チタン製の超軽量ペダル。その重量はなんと179g。
Nitto 80 bottle cages: カーボン製の軽量ボトルケージに比べて重量はあるものの、ホールド力と使いやすさは抜群です。
そのほか、チタン製のボトムブラケット、チタン製カセット(Campagnolo / Record)、カーボン&チタン製の変速機(Campagnolo / Record)といった超軽量パーツも使用しています。
そして忘れてはならないのが、Gilles Berhtoud(ジルベルソー)とコラボレーションしたコンクール・マシンのためのフロントバッグ(写真・下左)。通常モデル(写真・下右)と比較して大幅に革の使用部分を減らし、機能を限定し、フロントポケットもなくした1点モノ。なんと、重量は実測値でわずか266g。通常モデルの公称値は550g。私も最初に持った瞬間「軽っ!」と声が出てしまったほどです。使っている帆布も革も通常モデルと同じもの。帆布製×革製のフロントバッグは重たい、という従来のイメージを見事に払拭してくれました。
フロントバッグや携帯工具を含めても約9.7kg。この軽量化は、フロントバッグのメーカーとしても老舗のGilles Berhtoudの協力があったからこそだと言えるでしょう。ちなみに、Gilles Berhtoudからは「うちのロゴを付けると3gぐらい重たくなっちゃうんだけど、付けても大丈夫?」と問い合わせがありました。もちろんOKです! それこそが、コラボレーションの証ですもの。
ちなみに、フレームカラーはピーターがヤンのために選んだ色。「グリーン系にするかブルー系にするか、フレーム色はすごく迷ったよ。でも、ヤンはいつもブルーのジャージを着ているでしょ? だから明るいブルーを選んだんだ」とのこと。自転車はライダーが乗って走って、そこでようやく完成されるもの。ピーターの言葉は、そんな当たり前のことを思い出させてくれる一言でした。
3日間に及ぶコンクール・マシン2017。いかがだったでしょうか? 昨年のコンクール・マシンでは多くのメカトラブルが発生しました。今年は、昨年に比べてかなりメカトラブルが少なかった。コースは昨年以上にタフなものになったにも関わらず、です。そもそも、ライダーの技術や脚力に大きくスピードの左右される自転車は、性能の数値化が簡単ではありません。さらにフレームの素材だけとっても、スチールをはじめとしてステンレスやチタン、カーボン、バンブーetcと多種多様。同じ条件で比較するのは相当に難しい。そんな、実施の難しいテストライド込みのコンクール・マシンは、主催者にとってもチャレンジであるはず。
そんななか、メカトラブルの減少からも見てとれるように、参加ビルダーはどんどん進化していっている。これって、スゴイことだと思いませんか? かつてのコンクール・マシンが、フレームビルダーにとってスチールバイクやアルミ製バイクの可能性の追求と技術革新を生む場となったように、ここから世界に通じるイノベーションが再び生まれる日が来るかもしれません。それってすごく、ワクワクしますよね。今後の展開にも期待! です。
※コンクール・マシン関係の本Blogはコチラにリンクを貼ってあります。
コンクール・マシン:初日・プレゼンテーション(Concours de Machines Day1)
コンクール・マシン:2日目・テストライド(Concours de Machines Day2)
コンクール・マシン:3日目・テストライド(Concours de Machines Day3)
コンクール・マシン:リゾルト(Concours de Machines Result)
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